今日は、大学の「自然観察法」の試験。野外での実地試験をするつもりでいたのですが、天気予報は「雪」。雪は降らなかったのですが、あまりにも寒いので野外はちょっと出ただけで、主に室内で「観察」をしました。
平塚博物館の学芸員だった浜口さんは、私が(勝手に)師と仰ぐ人の一人ですが、著作の中で「文章によるスケッチ」を勧めていらっしゃいます。それがあまりにもおもしろいので、試験で使わせていただきました。学生さん1人に1個ずつ、ある物を渡し、できるかぎり正確かつ詳細に文章で表現していただきます。試しに、私が書いた文章は、こんな具合です。下の記述で、何を手渡したかわかるでしょうか?
**********************
形は、直径約5センチの球状の物体を上下に押しつぶした回転楕円体をしている。長径は短径と比べて1センチほど長い。頂上に枝についていたヘタがある。全体は一様にやや薄いだいだい色をしており、つやはなく、やや乾いた感じがする。細かな凹みに一面覆われおり、細いしわが幾筋か見られるのは、水分が抜けてしぼんでしまったためと思われる。表面は香りに乏しいが、外皮をむくと甘酸っぱいにおいが強く香る。皮の裏は白い繊維状のものに一面に覆われ、しっとりとしている。内部の果実は9つの半月の形の房に分かれ、膜のようなものに包まれている。膜の表面に白い繊維状の物質が被さっている。膜を取り除くと、果汁がしみ出し、さらに甘酸っぱい香りが強くなった。膜の中には細かな房状の粒々が無数に含まれている。果実を口にいれると、弱い甘みと強い酸味を感じた。
********************************
まず、外観の大きさ、形、表皮の形状、色、におい、手触りを観て、それから、外の皮をむいて、同じように形状、色、におい、手触りを確かめ、さらに、その中の果実を観察し、食べてみる。ふだん何気なく食べているみかんを観察して、大まじめに言葉で表現するというのは、すごく新鮮な経験だと思うのですが、日常的に見慣れているはずのものでも、改めてじっくり観察すると、意外な事実に気が付くかもしれませんよね。
植物や動物の図鑑の解説文は無味乾燥なものと思っている方も多いと思いますが、結構人間味のにじみ出るような記述の図鑑も多いのです。例えば『牧野新日本植物図鑑』をぱらぱらとめくってみただけでも、「あぶらぎく(しまかんぎく・はまかんぎく)」の項目では、「本種は山地に多く、島地を好まない、したがって島寒菊の名は不適当である」と手厳しい。かと思うと「なつしろぎく」では「可愛らしい多年草である」とけっこう自分の好みを押しつけていたりしています。図鑑の中に、こういう人間味のこぼれでるような記述を見つけると、うれしくなってしまいます。牧野富太郎と言えば、植物学の神様のような人ですが、神様も「この植物名は変だ!」と怒ったり、「この花は可愛い」と図鑑でほめているのを見て、神様の中に人間味を感じるわけです。さらに見ていくと「うど」の記述では「若い苗は食用になり、かおりは良く、美味」とあるのですが「たらのき」では「山に住む人達は若い芽を採り、たら芽と呼んで食べる」という記述です。現代のスーパーの序列では「タラの芽>ウド」のような気がするのですが、牧野氏の時代、タラの芽を食べることは一般的でなかったのかもしれません。それとも、牧野氏がタラの芽があまり好きではなかったのか? ちょっと調べてみたくなります。
作者の気持ちのにじみ出る図鑑と言えば『山渓ハンディ図鑑9 日本のカエル+サンショウウオ類』写真:松橋利光 解説:奥山風太郎 を思い出します。写真は可愛いし、解説も最高。カエルへの愛情でいっぱい。例えば、ツチガエルの記述では「捕まえると皮ふから粘液をだし、これが臭いとよく言われるが、異臭と呼ぶほどではないと思う」とあります。「みんなが臭いって言うけど、そんなに臭くないよなあ」とぶつぶつつぶやきながら、ツチガエルをかいでいる筆者の顔が見える気がしませんか?
最近のコメント